毎日の介護、本当にお疲れ様です。 進行する認知症の症状を前に、「もう限界かもしれない」「入院させてほしい…」と深く悩んでいませんか。
私は精神保健福祉士として、これまで数多くの「限界を迎えたご家族」のお話を聞いてきました。 だからこそ、はっきりとお伝えします。その思いは決して薄情なものではなく、あなたがこれまで必死に介護に向き合ってきた証拠です。
在宅介護が限界を迎えたとき、次にとるべき正しい行動は『ケアマネジャーだけでなく、専門医療機関(精神科など)へ相談すること』です。
この記事では、医療福祉の専門職の視点から、限界前に専門医を頼るべき本当の理由と、「本人が拒否する場合」も想定した具体的な相談手順について、少し深いところまで丁寧に解説します。
「入院させてほしい」という思いは、「医療的介入」が必要なサイン
介護サービスだけでは対応できない限界点
認知症が進行し、激しい物忘れだけでなく、昼夜逆転、徘徊、暴言や暴力、強い妄想などの症状(BPSD:行動・心理症状)が現れると、デイサービスやヘルパーといった「介護サービス」だけでは生活を支えきれなくなります。
このような激しい症状は「脳の病気」が進行した結果であり、生活支援から「医療的治療」へ切り替えるべき明確なサインです。
適切な治療とケアで、ご本人の「混乱や不安」が和らぐ
認知症の激しい症状(BPSD)は、ご家族を疲弊させるだけでなく、ご本人自身も幻覚や妄想、怒りや不安の中で「非常に苦しみ、混乱している」状態です。入院治療の最大の目的は、このご本人の苦痛を取り除くことにあります。
24時間体制の安全な病院で、医師による細やかなお薬の調整と、専門スタッフによる適切なケアが行われることで、ご本人を苦しめていた症状がスッと和らぎ、穏やかな表情を取り戻すケースが多くあります。
ご本人が専門的な治療によって心身の落ち着きを取り戻すこと。それが結果として、ご家族が安心して「本来の温かい家族の絆」を取り戻すための最大の近道となるのです。
なぜ「ケアマネジャーだけ」では入院の話が進まないのか?

「介護」と「医療」の役割の違い
介護で困ったらまずはケアマネジャーへ、と思いがちですが、「限界だから入院させてほしい」という段階では、ケアマネジャーだけに頼るのはおすすめしません。
ケアマネジャーは「生活を支える(介護保険)」プロですが、入院の要否を判断する「医療(医療保険)」の専門家ではないからです。医師の診断がなければ、どんなにケアマネジャーに窮状を訴えても、入院への具体的な扉は開きません。
重度認知症の薬の調整は、病院でしか安全に行えない
激しい症状を和らげるためには、お薬の力が必要になることが多くあります。しかし、高齢者の認知症の薬の調整は非常に繊細です。 自宅で家族が様子を見ながら薬を調整するのはリスクが高く、「24時間体制で医師や看護師が観察できる入院環境」でなければ、安全な治療や薬の調整ができないケースも多いのです。
精神保健福祉士が解説!専門医療機関へスムーズに相談する手順
手順① まずは病院の「医療相談室」に電話をする
いきなり本人を連れて行く必要はありません。まずは認知症専門医のいる精神科病院や、認知症疾患医療センターの「医療相談室」に電話をかけてみてください。
そこには私のような精神保健福祉士(PSW)や医療ソーシャルワーカー(MSW)がいます。「家族が限界なので入院を相談したい」と伝えていただければ、今後の具体的な受診の段取りや、負担を減らすための制度など、ご家族の状況に合わせた解決策を提案してもらうことができます。
手順② 「本人が受診を拒否している」と正直に伝えてOK

「病院に行くのを猛烈に拒否しているから、相談すらできない」と抱え込んでいるご家族は非常に多いです。 しかし、専門病院はそのようなケースに慣れています。「受診を拒否している」という事実を含めて、まずは電話でご相談ください。医療につなぐための具体的な対応策を一緒に考えてもらうことができます。
手順③ 医師に伝わりやすい「メモ」の作り方
いざ受診となった際、短い診察時間で事態の深刻さを的確に伝えるためには、以下の客観的データをメモしておくのが効果的です。
- 困っている症状の「具体的な内容」と「頻度(週何回など)」
- 睡眠時間や食事がどうなっているか
- 家族が限界と感じていること(「私が夜眠れず仕事に行けない」「手が出そうになる」など正直に)
実はこのメモ、診察室でいきなり医師に見せるよりも、事前に相談に乗ってくれた精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)へ渡しておくのがおすすめです。あらかじめ要点が医師へ共有されるため、実際の診察が非常にスムーズに進みます。
本人が拒否しても入院はできる?(精神科の4つの入院形態)
精神科の入院は、患者さんの人権を守るために法律(精神保健福祉法)で厳格にルールが決められています。主に「誰が同意するか」によって、大きく3つの形態に分かれます。
- 任意入院(本人が同意)
ご本人が入院の必要性を理解し、自ら同意して入院する一番理想的な形です。しかし、認知症が進行すると「自分は病気ではない」と病識が乏しくなることが多く、同意を得るのが難しいケースが多々あります。 - 医療保護入院(家族等の同意)
ご本人が病気を認識できずに入院を拒否していても、精神保健指定医(専門の医師)が入院の必要性を認め、かつ「ご家族等の同意」があれば入院できる制度です。認知症のBPSDが激しい場合、この制度を使って治療につなぐケースが非常に多くなります。 - 応急入院(緊急対応としての入院)
ご本人が同意できる状態でなく、急いで入院治療が必要であるにもかかわらず、離れて暮らしている等ですぐにご家族の同意が得られない場合に適用される制度です。精神保健指定医の判断により、72時間(3日間)に限って緊急で入院することができます。 - 措置入院(行政が同意)
自傷・他害の恐れ(自分や他人を傷つけてしまう危険)が極めて高い場合、行政(都道府県知事)の権限で強制的に入院となる制度です。
任意入院が難しくても、医療の専門家が判断すれば、ご家族の同意を根拠とした「医療保護入院」という制度で、安全な環境で専門的なケアをスタートさせることが可能です。
精神科の入院形態(任意入院や医療保護入院など)の詳しい要件や法律の根拠については、厚生労働省の公式サイトにも明記されています。
参考:厚生労働省「精神保健医療福祉に関する施策について」
まとめ:「もう限界」と思ったら、まずは医療相談室へ

限界を感じたら、一人で抱え込まず、専門病院の「医療相談室」へ電話をかけてみてください。今の苦しい状況をそのままお話しいただければ、状況を整理しながら解決策を一緒に考えてもらうことができます。ご家族だけで抱え込まず、まずは一本のお電話から頼ってみてくださいね。
本記事では入院治療について解説しましたが、入院以外の医療的アプローチとして「重度認知症デイケア」というサービスもあります。 ご家族の状況やご本人の症状に合わせて、ぜひこちらの記事もあわせてお読みください。



