【GHケアマネ直伝|認知症の不穏症状が軽減する『原因探し(アセスメント)』と『魔法の声かけ(対応の統一)』】

介護・福祉の現場

在宅介護の中で、ご本人のイライラやソワソワ、怒りっぽさといった「不穏症状(BPSD)」への対応に苦慮し、限界を感じているご家族は少なくありません。「なぜ伝わらないんだろう…」と、ご自身の関わり方に悩む必要はありません。

グループホームの介護支援専門員(ケアマネジャー)として、日々の実践からお伝えできることがあります。これらの不穏症状は、認知症による脳の機能障害(中核症状)という明確な医学的根拠に基づいて発生しています。原因を正しく分析(アセスメント)し、関わる人の対応を統一すれば、症状を安心へとコントロールすることは十分に可能です。

これは施設に限ったことではなく、おうち(在宅介護)の現場でもまったく同じ根拠に基づいて実践できます。その仕組みとコツを、プロの視点から分かりやすく解説します。

認知症は脳の病気|行動の裏にある理由を『アセスメント』する

認知症の不穏行動は、本人の性格や悪意によるものではありません。脳の器質的変化に伴う「中核症状」が引き金となり、そこから生じる二次的な不安や恐怖が原因です。

プロの現場では、まず以下の脳科学的根拠に基づいて原因をアセスメント(分析)します。

【事例:物取られ妄想】財布の紛失を「盗まれた!」と主張する

・原因(脳の仕組み):新しい出来事を記録する脳の機能低下

・脳のメカニズム:「自分で財布をしまった」という事実が、頭の中からすっぽり消えています。嘘をついているのではなく、本当に記憶がないため、ご本人の頭の中では「誰かが盗んだ」としか考えられない状態になっています。本人の世界ではこれが完全な事実であり、大切なものを失う強い恐怖から、激しい怒りが発生しているのです。

「怒るのには、必ず脳の仕組みに基づいた理由がある」。
まずこの根拠を知るだけでも、介護する側の客観的な視点を取り戻すきっかけになります。

根拠に基づく『魔法の声かけ』

原因が明確になれば、選択すべき対応と言葉遣いも自然と定まります。

❌ 避けたい対応:客観的「事実」の主張や反論

「盗んでいない」「さっきそこに置いたでしょ」という正論による説得は、記憶が消えている本人にとっては「自分の事実を否定された不信感」しか生みません。脳の混乱をさらに深め、不穏を悪化させる逆効果となります。

⭕ 根拠に基づく対応:本人の「感情(不安)」に寄り添い、一緒に探す

ご本人が困っている本質は、財布がなくなったことによる「強い焦りと不安」です。介護者はまずその感情を事実として受け止め、安心感を与えるアプローチ(魔法の声かけ)を行います。

介護者
介護者

「それは大変ですね。お財布がないと困りますよね」(まずは不安な感情に共感し、敵対関係ではないことを示します)
「私も一緒に探しますから大丈夫ですよ。こちらの部屋から見てみましょうか」(孤立感を解消し、安心できる環境へ誘導します)

発見時のポイントとして、介護者が「ほら、ここにある」と提示すると、本人のプライドを傷つけてしまう恐れがあります。

介護者
介護者

「ここにありましたよ。お母さんが大事に保管されていて良かったです」

と、ご本人が自分でちゃんと管理していたことを尊重する言葉を選ぶことで、興奮状態を速やかに鎮めることができます。

一緒に探しても「見つからない」ときは?

どれだけ探しても見つからないと、ご本人はパニックになり、不安がさらに強くなってしまいます。そんなときは、ご本人の心を傷つけない「優しいウソ」で安心を作ってあげるのも一つの方法です。

一度お茶を飲んで、別のことに意識を向ける

介護者
介護者

「あちこち探したけれど、今は見当たらないね。一生懸命探して喉が渇いたから、一度お茶にしましょう。一息ついてからまた探そう」

ポイント:認知症の脳は、一度不安に囚われると自力で切り替えることが難しくなります。「お茶を飲む」という別の安心できる行動を挟むことで、脳の興奮がリセットされ、気持ちが穏やかに落ち着いていきます。

「もう一つの安心(同じようなお財布)」をそっと手渡す

事前に、よく似たお財布をもう一つ用意しておくのもプロの知恵です。どうしても見つからずご本人の苦しみが続くときは、それを持ってきてそっと手渡します。

「お母さん、よかった!こっちのカバン(引き出し)に入っていましたよ。大切なものだから、ちゃんとしまってあったんだね」

ポイント:これは本人をだますための嘘ではなく、一刻も早く不安から救い出すための「優しいウソ」です。ご本人が求めているのは、財布そのものよりも「大切なものを失っていない」という絶対的な安心感です。手元にお財布が戻ってきたという事実だけで、脳の強い危機感はスーッと消えていきます。

それでも興奮が収まらないときの対応

どれだけ言葉を尽くしてもご本人の興奮が収まらないときは、脳が過剰に警戒しており、周りの言葉すべてが「攻められている」と感じてしまう状態です。

プロのケアマネジャーがここで最も大切にするのは、言葉で「説得」することではありません。ご本人の脳が自然と穏やかさを取り戻し、自ら「納得」して安心できる環境を作るための2つのステップを踏みます。

あえて「物理的に距離を置く」(環境による納得)

介護者
介護者

「じゃあ、私はちょっと台所で用事を済ませてくるね」
と優しく声をかけ、ご本人の視界から一度そっと離れます。

ポイント:興奮している目の前に介護者が居続けると、ご本人の脳は無意識に「敵が目の前にいる」と認識し、興奮が長引いてしまいます。
あえて別の部屋に移動し、10〜15分ほどご本人だけの時間(静かな環境)を作ります。介護者という刺激を一度遮断することで、脳の警戒モードが自然と解け、ご本人が自分自身で「あ、大丈夫だ」と納得し、気持ちを落ち着けることができます。

プロ(ケアマネジャー)に相談し、チームで解決する

もし物理的に距離を置いても激しい不穏が何時間も続いたり、毎日繰り返されたりする場合は、ご家族の力だけで「納得」してもらう限界を超えているサインです。

  • ポイント:これは病気の進行だけでなく、「実はどこか体が痛いけれど言葉にできない」といった隠れた原因があるケースも多いです。
    決して一人で抱え込まず、すぐに担当のケアマネジャーに現状を伝えてください。ケアプランを動かしてプロの介護サービス(ショートステイなど)をうまく組み合わせ、ご本人がよりリラックスして過ごせる環境を、チーム一丸となってアセスメントし直す段階です。

在宅介護の負担を減らす『対応の統一』

アセスメントによって有効な声かけや環境調整が見つかったら、最も重要なのは関わる全員でその対応の「一貫性」を保つこと(対応の統一)です。

認知症の脳は、人によって対応や声かけが変わると、状況を予測できず、さらに大きな混乱(不穏の増幅)を招きます。家族、ヘルパー、デイサービスなど、すべての介護者が同じルールで対応することで、はじめて本人に「予測可能な安心感」が生まれます。

ご家庭での対応に迷うときは、決して一人で悩まず、も担当のケアマネジャーに声をかけてください。ケアプラン(介護サービス計画書)は、単なる手続きのための書類ではありません。「ご本人がどうすれば安心できるか、家族みんなで共有するノート」のようなものです。

私たちケアマネジャーをいつでも頼っていただき、一緒に「おうちの共通ルール」を作っていきましょう。

在宅介護はチーム戦!

認知症の不穏症状を和らげるのは、感情論ではなく、脳の仕組みを理解した適切なアプローチです。そしてそれは、グループホームだからできるわけではなく、コツさえ掴めばおうちでも十分に実践できます。

説得するのではなく、本人が自ら「納得」して安心できる環境を整えてあげること。

一人で抱え込まず、私たちケアマネジャーと一緒に「不安の原因」を探り、チームで声を揃えていきましょう。家族みんなで同じ方向を向くことが、ご本人とご家族の穏やかな時間を守る一番の近道です。

「そもそもグループホームってどんなところ?」という方は、こちらの記事で分かりやすく解説しています。👉 【グループホームとは?特徴や仕組みの解説記事へ】

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